「食べないの?」
言葉と共に俺の目の前にみずみずしい丸い物体が突きつけられた。
「もちろん、食べるよ。」
レニの行動に観念して俺は読みかけの本を閉じた。
ちょうど推理小説の謎解き部分だったので先が気になって仕方ないが、結婚したばかりの妻の少しすねたような声を聞けば優先順位はおのずと決まってしまう。
ソファーの隣に座ったレニが突き出していた物体は皮のむかれた巨峰の1粒だった。
 『そういえばさっきレニがファンの人からもらったといっていたっけ…。』
俺はいたずら心がうずいて、目の前にあった巨峰をレニの指ごと食べることにした。
「きゃっ!」
思ってもいなかった俺の行動にレニは慌てて手を引っ込める。
「もう、指まで食べるなんて………。」
条件反射だろうか、大して強くかんでないがレニはかまれた指をさすっていた。
俺は少し恨みがましい目で見るレニに小さく笑って答えると、今度はもうひとつのほうの手を取ってなめた。
皮をむいた時にでもついたのであろう、こちらの手もぶどうの甘い味がした。
「こっちの手も甘くておいしいよ。」
そういうとレニは顔を真っ赤にしてうつむいた。
調子に乗って俺は手のひらにキスをし、そのまま腕をさかのぼってレニの顔へとキスを降らせていった。
最後に唇に少し長めのキスを降らせてからレニを開放した。
すると少し潤んだ瞳でレニは俺を見つめてきた。
なんとなく言いたいことはわかったが、あえてレニに言わせたくなった俺は疑問を投げかけることにした。
「なに?」
レニは赤い顔をもっと赤くして少し目をそらせて答えた。
「もっと………して。」
満足行く答えを聞けた俺はレニのあごを取り笑って返事した。
「りょうかい。」
レニが何かを言う前にすばやく口をふさいだ。
舌を入れレニの口を十分味わいながら、俺はこの続きをどこでするか考え始めた。



「おまたせ、葡萄洗ってきたよ。」
秋の気配も深まってきた休日の午後、お休みなのに午前中仕事をしていた一郎さんに少しでも疲れを癒してもらおうとファンの人からいただいた巨峰を持ち出した。
なのに葡萄を洗って部屋に戻ってみれば一郎さんは本を読んでいて一向に目を離してくれない。
一応「ん〜。」と返事はしてくれたけど、目の前のテーブルに葡萄を置きボクが一郎さんの隣に座り食べ始めても目を離してくれなかった。
結婚してからというもの一郎さんの何気ない日常をそばでずっと見ていられるということに幸せを感じていたけど、こういうのはちょっとつまらない。
なので3粒目の葡萄の皮をむいたとき一郎さんの目の先に葡萄を突きつけてみた。
「食べないの?」
そこまでして一郎さんはやっと本から目を離しページを閉じてくれた。
「もちろん、食べるよ。」
といって一郎さんはボクが突きつけた葡萄をぱくっと食べた。
葡萄を食べるのはいいんだ、そのつもりで持ってきたのだから。
でもまさか指ごと食べられるとは思わなかったから、ボクはびっくりして慌てて手を引っ込めた。
びっくりさせられたのが少し悔しかったから、ボクは軽く一郎さんをにらんだ。
でもまったく一郎さんにはこたえてないみたいで、くすっと笑うとボクが反応する間もなくもう一方の手を取りなめた。
「こっちの手も甘くておいしいよ。」
あまりの言葉にボクは一郎さんを見てられなくなってうつむいた。
けどボクは一郎さんの手を振り払おうとはしなかった。
少し強めに握られてはいるけど、振り払おうと思えば振りほどける程度だったのに…。
一郎さんは手のひらにキスをすると、そのままキスを降らせながら腕をさかのぼってきた。
羽織っていたカーディガンはいつの間にか脱がされ、唇は肌の上を直接たどっていく。
手首・腕・肩・鎖骨・首・あご・頬………唇。
もっと続くと思ったのに、そこで一郎さんの腕から開放されてしまった。
もっと触れて欲しくて、思わず一郎さんを見上げた。
「なに?」
正直に答えることなんて出来るはずもなく…
「もっと………して。」
ボクにとって精一杯の言葉。
そのときの一郎さんのすごく嬉しそうな瞳の奥の光に、ボクは早く気がつくべきだったと後で思った。
そう、結婚前と立場が違うんだということをそのときのボクはすっかり忘れていたのだった。

え〜と、当初考えてたものよりもかなり甘くなってしまいました、はい(苦笑)
某チャットでとある方に砂を吐かすようなものを!!と思っていたら行き過ぎたというかなんと言うか(汗)
暴走してるとでも思ってください(爆)

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