見た瞬間、世界が止まったような気が………した。


ベットに入ったもののボクはぜんぜん寝付けないでいた。
いつまでたっても寝れないので、ホットミルクでも飲んだら寝付けるかと思い部屋を出た。
階段を下りようとしたとき、何気なしに横を見たらそこに彼が……いた。
帝劇の中で油断してたとはいえ、まったく気配がなかったのでそこにいるとは気づかなかった。
いや、気配がないというよりも周りに同化してしまって気づかなかったというのが正解だろう。
彼は廊下の窓枠に片膝を立てて座り込み、外を見ていた。
弱弱しい月明かりが差す中、グラスを片手に持ちシャツをはだけさせて座る彼がいつもとはまったく違う雰囲気を持っていてボクは目が離せなかった。
「レニ。」
彼がボクに気づいてそっと名前を呼んだ。
それだけでボクの心臓は他の音が耳に入らないぐらい大きな音を立てた。

「眠れないのかい?」
そばに言ったボクに隊長はそうたずねた。
「うん。 ………隊長は何してるの?」
「俺は……月を見てた。」
隊長はそういって再び外に目を向けた。
視線の先には半分雲に隠れた月があった。
「『朧月夜(おぼろづきよ)に しく物ぞなき』 だと思わないか?」
隊長はつきに目を向けたままそういった。
「え?」
ボクは月ではなく、月を見てる隊長を見てたためすぐには理解できなかった。
「新古今和歌集だよ。
 『照りもせず 曇りもはてぬ 春の夜の 朧月夜に しく物ぞなき』」
新古今和歌集 巻第一 春歌上 55  大江千里作
訳:強く輝くのでもなく、陰るでもない春の夜のおぼろ月に 肩を並べる景色はないことだ。
隊長の言葉を理解したとたんデータが頭の中に浮かんできた。
そうして改めて月を見てみた。
月齢でいえば18、日本風に言えば居待月(いまちづき)ぐらいだろうか?
薄い雲の向こうからうっすらと光が差してきて、幻想的な雰囲気をかもし出していた。
「うん、そうだね。」
それからボクたちはしばらくそのまま黙って朧月を見ていた。


「これぐらいなら大丈夫か?」
そういって隊長がボクにグラスを差し出した。
受け取ったボクは一口飲んでみて大丈夫だと判断した。
「うん、これぐらいなら大丈夫。 ありがとう。」
ボクがお礼を言うと隊長は少し苦笑した。
あのあと隊長のそばを離れがたくて部屋に帰るのを渋ったボクを隊長は自分の部屋に招いてくれた。
そして隊長と同じものが飲みたいといったボクに、ラムネで薄く割ったブランデーを入れてくれた。
隊長はそのままで飲んでいたけど、さすがにボクにはそれは無理だと判断したためだろう。
隊長は部屋の窓枠に座り込み、また外を見ていた。
しばらくボクはそんな隊長を見てたけど、何を見てるのか気になってたずねてみた。
「特に何かを見てるというわけじゃないんだ、ただぼーっとしてるだけ。
 ふとしたときにこういう時間が欲しくなるんだ。」
その言葉にボクの心は不安になった。
「………もしかして、ボク邪魔してた?」
隊長はボクの隣に座り、思わずうつむいてしまったボクの背中に手を置いた。
「他の人だったらたぶんわずらわしくなってしまうだろうけど、レニならいいよ。」
その言葉に、思わずボクは隊長の顔を見つめた。
「レニになら無防備な自分を見られても許せる…。」
「たいちょう…。」
ボクは嬉しくなってそのまま隊長にもたれかかった。
「俺のほうこそごめんな、レニがそばにいるのにほったらかしにしてて…。」
「そんなことないよ、いつもと違う隊長が見れて嬉しかった……。」
ほっとしたら眠くなってきて思わずあくびが出てきた。
「眠かったらこのまま寝ていいよ、俺がそばにいるから。」
「うん、ありが…とう………。」
ボクはそのまま幸せな気分で眠りについた。
そして隊長のそばがボクにとって1番安らげる場所なんだと改めて思った。

レニの知らない大神さんの1面を書いてみたいなと思いました。
いつもみんなに振り回されてる大神さんだから、ぼーとする時間があってもいいんじゃないかと(笑)
あと年齢差がかなりあるから大人っぽいところも出せたらいいなとも。
でも微妙……。

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