ふと目が覚めた真夜中、月の光がカーテンの隙間から入り込み床に一筋の線を描いていた。
ボクはその光に誘われるように隊長を起こさぬよう腕の中からすり抜け、手近にあったバスタオルを体に巻きつけるとカーテンを少し開けた。
空に浮かぶ青白い月、その光をボクは全身に浴びるように窓辺に立った。
ただ何もすることなく月を見上げる。
そうしてると昔のことを思い出した。
感情を出すこともなく言われるままただ生きていた時代(とき)、ボクに許されてたことはただ部屋の中から空を見上げることだけ。
眠るとき以外はたいてい空を見上げていた。
晴れた空、雲がたなびく空、雨雲に覆われた黒い空、昼の空、夜の空。
太陽の光は強すぎて、星の光は儚すぎる……
そのなかで唯一月だけがボクの元へと光を届けてくれていた。
だからだろうか?
いつの頃からかその光の中にいるときだけ、ボクがボクでいられるような気がしていた。
帝劇に来てボクが変わっていったように、月の光の中にいる意味も少しずつ変わっていった。
安らぎだけではなく苛立ちや悲しみも月の中に見えるようになってきた。
そして今見えるのは……恐れ。
信頼できる仲間を、友達を得、愛する人ができ、その人から愛されている。
すごく幸せで、幸せだからこそそれを失うことを恐れている。
ある日何もかもこの手から零れ落ちてしまうんじゃないかと。
さらには今ここにいるボクこそが夢で、目が覚めたら研究所のあの部屋にいるのではないかと……。
とたんに体に震えが走り自分を抱きしめようとした瞬間、ボクはもっと暖かいものに包まれた。
「まだ夏とはいえ、涼しくなってきたんだからそんなカッコでいると風邪を引くぞ。」
隊長は自分がかぶってた布団ごとボクを後ろから抱きしめてくれていた。
肌から直接伝わる熱と隊長の腕の中にいるという安堵感にボクは全身の力を抜き体をあずけた。
そんなボクを隊長はさらにきつく抱きしめた。
「レニの居場所はここだから、他のどこにもやらないし行かせない。」
そんな隊長の言葉でボクの不安を理解してくれていたことに気づく。
「うん。」
隊長を見上げると真摯な視線が降りてきた。
額に軽くくちづけが落とされ、ベットに運ばれる。
そこで再び与えられたあつい熱に翻弄され、ボクの中にある恐れは消されていった。
BGMは同タイトルのドビュッシーのものです。
昔から好きで、ある晩月がきれいだから久しぶりにこの曲をかけてたらこの話が浮かびました。
でもやさしい曲なのになんでこんな切なげな話になってしまったのか謎(爆)
話の中の季節は9月、でも現実は梅雨が明けたばかりで猛暑日が続く7月。
クーラーがかかってる中でしか、これは書けませんでした(苦笑)