「はぁ〜〜。」
夜も更けたサロンで一人、レニは長いため息をついた。
目の前にあるのは活動写真のチケットが1枚。
さっきまでみんなとこのサロンで雑談していたのだが、みんなが三々五々と部屋へ戻った後でもひとり残りチケットを眺めてため息ばかりついていた。
このチケットをもらったのは今日の午後、次回公演のポスターの撮影が終わったあとだった。
カメラマンの助手の青年に呼び出され、断る間もなくチケットを押し付けられてしまったのだ。
レニとしては大神と婚約している身なので、他の男性と二人で出かけるというのは論外だ。
だがそのことはまだ世間に公表していないし、レニが来るまでずっと待ってるといわれてしまった。
それにまだブロマイドなどの撮影が残っていて、今断ると後の仕事に支障をきたすのではないかと悩んでいたのだった。
レニはチケットをつまんで目を通した。
今話題になってる恋愛もののチケットだ、座席も指定されてるからそれなりの値段をしている。
「はぁ〜〜〜〜。」
もう何度目になるか分からないため息を、またついた。


「浮気は許さないよ。」
突然背後から声が聞こえたと思うと、レニが持っていたチケットを声の主が奪っていった。
「ふ〜ん、明後日の午後4時からのチケットか…。
 活動写真が終わったら夕食にでも誘うつもりだったんだろうな。」
いつもより低い声で憮然と話す大神にレニは面食らった。
「隊長………。」
「織姫君からレニが助手に呼び出されてから様子がおかしいと聞いたけど、活動写真に誘われていたとはね。」
大神はつまらなさそうにチケットをぴらぴらとさせた。
「ともかく、このチケットは明日にでも返してくるから。」
「えっ!?」
レニは大神の「返してくる」の言葉に驚いた。
もちろんこれからの仕事のことを思ってのことだが、大神にはその態度が気に食わなかったようだ。
サロンを出ようとした足をきびすを返してレニの腕を取った。
「レニはこの活動写真に行くつもりだったのかい?」
「それは…。」
目を覗き込んでくる大神にはっきりとした返事を返せなくてレニは目をそらせた。
「言ったはずだよ、浮気は許さないって。
 レニは俺のものなのだから。」
その言葉にレニはピクっと反応して大神を見つめた。
「隊長は、ずるいね。
 隊長はみんなの隊長なのに、ボクは隊長のものだなんて……。」
少し潤んだ瞳で辛そうに言うレニに大神は嬉しそうに笑った。
「レニはそんな風に思ってたんだ。
 俺としてはとっくにレニのものになってるつもりだったんだけどな。」

「大神さんはレニのもの」というのを書きたくて作りました。
レニにチケット送るのは誰でもよかったんですけど、下手なものを出すと後々大神さんが困るかなと思って助手にしておきました(爆)

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