これは夢だ
はじめからボクはそう認識していた。
いつもと同じようで少し違う帝劇の中庭、いつものようにフントと遊びながらそれでもいつもよりもリアルな感触に戸惑っていた。
「わん、わわん!」
突然フントが何か訴えるように大きな声で鳴きだした。
「どうしたの、フント?」
ボクの腕をすり抜けフントはボクの後ろのほうへと走り出した。
「ま、待って、フント!」
とりあえず追いかけないととボクも走り出したけど、まったくフントとの差は縮まらない。
中庭はフントの走る分だけ走っていく方向へと伸びていく、そしてフント自身は走る分だけだんだんと小さくなっていった。
フントが出会ったときと同じ大きさまで小さくなったとき、フントが走る先に人影があることに気づいた。
人影は足元に来たフントを抱き上げると頭をなでだした。
その人影が誰だかわかったとき、ボクの足は止まった。

「たいちょう………?」
夢だと分かってるのにボクは思わず呼びかけてしまった。
隊長はボクがここにいることに一瞬驚いたけど、優しく笑ってくれた。
「レニ。」
隊長の呼ぶ声にボクはいてもたってもいられなくなって、隊長の胸へと飛び込んだ。
「隊長、隊長!」
突然のボクの行動に隊長は戸惑っていたけど、そのうちそっと抱きしめてくれた。
隊長の腕の中は、夢だとは思えないほどあったかくて安らげた。

「不思議だな…、夢の中なのに本当にレニを抱きしめているような感じがする。」
ボクの感情が落ち着いてきた頃、隊長がポツリとそう言った。
「ボクも、そう。
 隊長が本当にここにいるような感じがする…。」
隊長の胸に顔をうずめたまま、ボクはそう答えた。
「レニ………。」
隊長はそっとボクの体を離すとボクのあごを取って上を向かせた。
隊長の顔がどんどん近づいてきてボクに触れそうになったとき、ボクは腕を目いっぱい伸ばして隊長を遠ざけた。
「夢なのに夢じゃないような気がする、でもやっぱり夢は夢だ。
 ボクは現実で隊長に会いたい!」
ボクの行動に呆然としていた隊長は、ボクの言葉を聞いて破顔した。
「わかったよ、この続きは帰ってからすることにする。」
隊長の言葉に顔が熱くなっていくのを感じてると、どこからか白い霧が現れてどんどん隊長の姿がかすれてきた。
「早く帰ってきてね。」
目が覚めるんだと理解したボクは隊長に向かって笑って答えた。
すると隊長の手が伸びてきてボクの腕を引っ張った。
そのままおでこにキスをされて……………………。


目が覚めたボクは恥ずかしさにベットから動けなくなっていた。
いくら会いたいからといってあんな夢を見たこと、そして最後のキスの感覚がおでこに残っていて………。
そこにキネマトロンの音が鳴り響いた。
ボクはいたずらを見咎められたみたいな気分になって、慌ててキネマトロンに出た。
「レニ……。」
キネマトロンで通信してきたのは隊長だった。
「たいちょう……。」
「朝早くにごめんな。もしかしてまだ寝ていた?」
さっきの夢とあいまって少しボーっとしていたボクは隊長の言葉にはっとした。
「大丈夫、ベットの中にはいたけどもう起きていたから。」
パジャマのままキネマトロンに出てしまったことを少し後悔した。
「誕生日おめでとう、レニ。
 それが言いたかっただけなんだけど、時間を考えずに通信してしまって…。」
隊長のしゅんとした姿に、ボクは思わずくすりと笑った。
「ううん、嬉しかったからいいよ。
 隊長、ありがとう。」
ボクがお礼を言うと隊長は笑って答えてくれた。
でもそのあと、隊長はボクを見たまま黙りこくってしまった。
「隊長?」
ボクが話しかけると隊長は少し目をそらせて話し始めた。
「実は……今朝レニの夢を見たんだ。」
その言葉にボクの心臓は大きく音を立てた。
「夢なのに現実みたいな感じがして、それをレニに言ったら夢は夢だから現実で会いたいと言われたんだ。
 だから目が覚めたとき、いてもたってもいられなくて………レニ?」
ボクは途中から恥ずかしさのあまり下を向いてしまっていた。
自分だけが見た夢だと思っていたのに、まさかその夢を隊長も見ていただなんて。
「あ、あのね、隊長…、そ、その夢の最後……お、おでこ………………………。」
ボクも同じ夢を見たことを隊長に伝えようとしたのだけど、恥ずかしくてどうしても言葉が続かない。
「もしかして、レニも同じ夢を?」
ボクはもう何も言えず、ただうなずいた。
「そっか、アレは本当にレニだったんだ…。」
その言葉に何か含みを感じたボクは下に向けていた視線を隊長に戻した。
すると隊長はにっこり笑ってこう答えた。
「なるべく早く帰れるようにするよ。
 レニと夢のつづきが出来るように、な。」
その言葉にボクは体中の血が顔に集まったように感じた。



2004年のお誕生日SSです。
はじめはもっとあっさりしてたはずなのですが、なぜかこうなりました(-_-)ゞ゛
ちなみにフントはレニと大神さんの夢を繋ぐ役目をしてます。
大神さんの中ではまだフントは子犬のような気がするので、大神さんの夢の中では子犬になってもらいました。

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