「あ、雪・・・。」
空を見上げると暗い夜空から白いものがポツリポツリと降ってくるのがわかった。
クリスマス公演中に降りだした雪は打ち上げを始めてしばらく後に止んでしまっていた。
アイリスはすごく残念がっていたが、ボクはそれでいいと思った。
なぜなら今日この日に雪が降って積もるのは去年を思い出してしまうから。
今ここにいないあの人を思い出してしまうから。
「降らないでよ・・・・・。」
つぶやいた言葉は雪に吸い込まれ、誰も聞いてくれない気がした。
それが苦しく感じてボクは手の中にあるバラを見つめた。
加山隊長経由で渡された赤いバラ、プレゼントは帰ってから直接渡すとの伝言つきだった。
バラを花瓶に入れてくるといって打ち上げを抜けだしたが、そのまま部屋に帰る気になれず中庭に来ていつものベンチへと座った。
後ろから聞こえてくる楽屋の賑やかな声を聞きつつ、ほてりを冷ますために一息ついたところだった。
雪は次から次へと舞い降りてくる。
バラにも降りてきてはすぐに溶けて落ちていく。
その流れを見つめていると、どんどん目頭の奥が熱くなってきた。
バラに落ちる雪が溶けずに白く積もりだしたころ、雪とは違う冷たいものが頬の上を一筋流れた。
「・・・会いたいよ。」
つぶやいた言葉はまた雪に吸い込まれていった。
「18本。」
赤いバラを花瓶にいけつつボクはそう呟いた。
今年の誕生日もプレゼントと一緒に隊長は赤いバラをくれた。
去年は赤いバラも本数も意味があったなんてことは全然気づいてなかった。
ただただ隊長がそばにいないことが苦しかっただけだった。
意味を知った時、今度は嬉しくて涙を流した。
あの時の記憶はボクの大切な宝物になった。
そして今は暖かいもので心が満たされている。
「レニ、そろそろ楽屋へ戻ろうか?」
ドアをノックしながら隊長が話しかけてきたので、ボクは準備を整えて部屋を出た。
自然に出された左手にボクはそっと手を乗せた。
「ねぇ、隊長?」
「うん?」
「今度から遅れてもいいから、バラは別の人に頼まず直接渡して欲しい。」
そう言うと隊長は右手で額のところをかいた。
「あ〜、去年の。
あの時は間に合わないと必死だったんだ。
けど、帰ってから何やってるんだと織姫くんに怒られたんだよ。」
隊長の情けない顔がなんだか可愛く思えてボクはくすくすと笑った。
「大丈夫、これから先は離れるつもりはないから絶対直接手渡すよ。
それにたとえ仕事で遠くに飛ばされたとしても、今度はレニも連れて行く。
ついてきてくれるだろう、家族として?」
その言葉にボクは胸を突かれ、言葉が出てこなかったのでただひたすらに頷いた。
ぎゅっと隊長に抱きしめられ温もりに包まれた中、左手にはめられた指輪の冷たさがこれが現実だと教えてくれた。
2012年の誕生日小説です。
最近はボカロの方がメインになるつつありますが、レニの誕生日だけは外せないと頑張りました!
24日はMMD動画をアップしてます。
2012/12/13up
2012/5/31収録
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