はじめからわかっていた
今の生活はひとときの夢、永遠に続くはずはないということを
それでも終わりは来て欲しくなかった…
夜の帳に包まれた真夜中、自分の部屋で紅蘭に付き合ってもらって出した光武二式の実験データを見ていたすみれはため息をついた。自分の霊力の低下を感じ、でもそれを否定したくての行為だったが結果はすみれが認めたくない現実を如実に示していた。
原因はわかってる、幼きころから霊子甲冑の実験のために霊力を使っていたからだ。そこへもって先日の大久保長安との戦闘で限界を超えて霊力を放出したことがとどめをさしたのであろう。
すみれはどちらのことも後悔はしていなかった。実験に立ち会わなければ帝撃自体の存在が危うかったし、あの時持てる力をすべて出し切らなければ今の平和はなかった。
『現実を認める強さを持て。』
そう大神に言ったのは過去のすみれ自身、だからどんなにつらくても決断をしなければならなかった。
「はぁ〜。」
何度目かわからないため息をついたあと、すみれは立ち上がり部屋を出た。ハーブティーでも飲んでリラックスしようと思ったからだ。すみれが廊下に出るとちょうどレニも部屋から出てきて目が合った。
「あら、レニ。今からお風呂ですの?」
レニが持つ荷物を見ての言葉だ。
「今日は帰ってくるのが遅かったから………。」
言いながらうつむいてしまったレニを疑問に思い顔をのぞき込もうとしたとき、すみれはレニの左手に光るものを見つけた。
「それじゃ、ボクもう行くから。」
レニはすみれの視線から逃れるように返事も待たず駆け足で地下へと降りていった。すみれはレニの去った先を見つめしばらくその場に立ち尽くしていた。
カチャ。
火の気の落ちた静かなサロンにカップの音が響きわたる。すみれの頭の中を巡るのはレニの手にあった光るもののこと。
(あれはおそらく………)
すみれは考え付いた答えに胸を痛める、叶うことのない一方通行の思いのために。
「やあ、すみれくん。」
「………中尉。」
大神が突然声をかけてきたのですみれは驚きを隠せなかった。
「いい香りがするね。
この前も飲んでいたハーブティーというやつかい?」
すみれの驚きを気にもせず大神はすみれの元へ行きカップを覗き込んだ。
「え、ええ、そうですわ。中尉もお飲みになります?」
「ありがとう、いただくよ。」
琥珀色した液体が静かにコップに注がれる。大神はさっきから何も言わずすみれがハーブティーを入れるのをただ見ていた。
「どうぞ。」
「ありがとう。」
大神はカップを受け取り一口飲んだ。
「やっぱりすみれくんが入れてくれるものはおいしいね。」
そう言うと大神はまた黙り込んだ。自分が悩んでいるのを見てでの行動だということはすみれにもわかっていた。すみれが行動を起こさない限り、大神はずっとこのまま黙ってすみれのそばにいるだろう。すみれにはそれが嬉しくもありつらくもあった。
(やさしさは時には残酷でもありますのよ、中尉………)
すみれは心の中でつぶやくと大神に話し掛けた。
「今ごろ見回りなんてずいぶん遅いですわね。
いつもはもっと早い時間になさってらっしゃるのに。」
「帰ってくるのが遅かったらこんな時間になってしまったんだ。」
「今日はレニと一緒に出かけてらっしゃったようですわね。
先ほどレニに会ったとき、これからお風呂だといってましたし。」
レニという一言に大神は照れたように笑った。
(わたくし自身が前に進むためにも決着をつけなくては………)
すみれは胸の痛みを無理やり押さえつけ言葉を紡いだ。
「中尉、私は一人の殿方としてあなたをお慕いもうしております。」
その言葉に大神は驚いた。断りの言葉が紡がれるのを覚悟して待っていたすみれは次の瞬間が信じられなかった。
「ありがとう。」
大神は笑顔ですみれにそう答えた。その言葉で今まであった重く苦しいものがすみれの中から消えた。すみれには受け取ってもらえないと思っていた一方通行の想いが受け取ってもらえたために昇華したように思えた。
「でも、俺は………」
「中尉。」
断りの言葉を続けようとした大神をすみれは静かに止めた。
「左手の指輪に気づかない神崎すみれじゃございませんわ。
………しあわせに、なってくださいましね。」
「すみれくん………。」
大神に微笑むとすみれはそのまま自室へと戻っていった。サロンから去るとき大神の「ありがとう」という言葉がすみれの背中を追ったがすみれは振り向かなかった。
(お礼を言うのはわたくしのほうですわ。好きになった殿方が中尉で本当によかった。)
すみれの顔には涙が流れていたがその表情は晴れ晴れとしていた。
翌日、朝1番にすみれは米田へと電話をかけた。
「お話がありますの、少しお時間をいただけないでしょうか?」
ということですみれのお話でした。サブタイトルをつけるとしたら『決断のとき』でしょうか?今回は特にタイトルに悩みました。たとえ傷ついてもまっすぐ前を見ているすみれをあらわしたかったのですが、なかなかいい言葉が浮かばなくて… 「しなやか」も候補に上がっていたのですがちょっと意味合いが違うのではないかと思い却下。それを言うのなら「凛」という言葉も勇ましいという意味もあるので少しばかり違うところはあるのですが(^^;
これは「未来への道」の続きでその日の夜のお話となってます。なので出かけてたというのは桜を見に行ったデートのこと、遅くなったのは話のきっかけを作るためなのでどうしてたかまでは考えてません(爆)でも、ああいう時って二人っきりでいたいものだからなかなか帰る気にはならなかったと思います(笑)
これは日記にもちょっと書いてたのですが、すみれの霊力低下の原因となった戦闘とは4の最終戦のことです。地上部隊の隊長に選ばれて地上部隊のみんなと街と大神さんの言葉を守るために霊力を出し切ったのではないかと。絶体絶命のピンチなのに強がってすぐ終わるみたいなことを言うなんてすみれにぴったしじゃないですか。なので私が4をやるときレニが地上部隊にいなければすみれを選んでました。
本当は神崎の話とかも入れたかったのですが、うまいこと入れられず断念しました。最初に考えた話と違ってしまうのはいつものことなのですが…う〜む。
次は大神さんの話の予定ですが、ネタが浮かんできたので間に1本別のものを入れるかもしれません。あくまで予定なので実際はどうなるのやら。
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