「本当に大丈夫かい?」
大神はベットに寝ているレニにそう問いかけた。
大神が支配人の座を継いでから約半年が経った。
支配人としての仕事にもなれてきて、冬公演の準備も順調に進んでいた。
ところが秋に結婚したばかりの妻・レニの調子がこの頃良くなく、大神はそれがたいそう気になっていた。
「大丈夫、寝てればすぐによくなるよ。」
レニはそういうが顔色はかなり悪く大丈夫そうには見えなかった。
「やっぱり心配だ、もう少しレニの側にいるよ。」
心配でたまらない大神はそういったがレニは小さく首を振った。
「ダメ、支配人が仕事をしないとみんなが困るよ。」
「じゃあ、ほかの誰かに頼んで………。」
「それもダメ。公演前の忙しい時期にみんなの手を煩わせたくない。」
「でも………。」
「寝てればすぐよくなるから、だから………。」
具合が悪いというのにレニは一歩も譲る気配を見せなかった。
そんなレニに大神は仕方ないとばかりにため息をついた。
「わかったよ、その代わり何かあったらすぐ呼んでくれよ。」
「うん。」
「マリアには俺のほうから稽古を休むってことを言っておくから、ちゃんと休んでるんだよ。
レニはすぐ無理をするから………
今回倒れたのだって無理がたたったんだろう?」
大神の言葉にレニはきょとんとした顔をした。
「もしかして………気づいてないの?」
「え、何に?」
恐る恐る聞くレニに今度は大神のほうがきょとんとした。
「そういうところはぜんぜん変わらないね。」
重ねて尋ねる大神に、レニは内緒だと笑ってちっとも答えなかった。
少し憮然としつつもレニが笑ってるので大神は少しだけ安心した。
「それじゃ、行ってくるから。」
大神はレニに手を伸ばし、そっと頭をなでた。
「いってらっしゃい、一郎さん。」
「あ、マリア。おはよう。」
大神が1階に下りてきたところでちょうどマリアを見つけた。
「おはようございます、隊長。」
「ちょうどよかったよ。レニの具合が悪そうだから今日の稽古は休ませようと思ってるんだ。」
「そうですか、レニは大丈夫なのでしょうか?」
このところのレニの不調にマリアも気がついていたので心配そうに眉を寄せた。
「レニ自身は大丈夫だって言い張ってるけど………。」
「辛くてもそれを言わない子だから心配ですね。」
大神の不安を言いあてるように言葉を引き継いだマリアを見て大神はため気をついた。
「マリア、悪いけど手が空いたときにでもレニの様子を見に行ってくれないか?
俺も手が空いたときにはなるべくレニの元へ戻るようにはするつもりだけど………。」
「わかりました、私も気をつけるようにしておきますね。」
「頼むよ。」
それから1時間程たったころ、マリアがレニの様子を見ようと階段を上りかけたところでレニが降りてきた。
「レニ。」
「あ、おはようマリア。」
「起きてきても大丈夫なの?」
「うん、少し寝たから。」
確かにレニの顔色は悪くないが、なんだかだるそうに見える。
「でもやっぱり今日は寝ておいたほうがいいと思うわ。
隊長も心配なさっていたし………。」
だがレニは心配そうなマリアを前にくすくすと笑い出した。
「レニ?」
怪訝そうなマリアを見てレニはあわてて謝った。
「心配してくれてるのに笑っちゃってごめん。
でもずっとそばにいるのにボクの不調の原因をさっぱりわかってない一郎さんがおかしくて………。」
まだ笑いの止まらないレニを見ながらマリアはレニが具合の悪かったときのことを思い出そうとしてた。
「あ!」
「わかった?
人の心には機敏なのに、こういうところは相変わらずだよね。」
「ほんとうね。」
幸せそうに笑うレニにつられてマリアも一緒になって笑った。
「これから病院に行って確かめてくるよ。
それまでは一郎さんには内緒にしておいて。」
「わかったわ。そのかわり帰ってきたらすぐに教えてね。」
了解といいながら歩いていくレニをマリアはしばらく見守った。
その瞳は温かく包み込むようでもあり、眩しいものを見つめるようなものでもあった。
「みんな、レニを知らないか?
具合が悪いというのに部屋にいないんだ。」
大神がそういいながら舞台へとやってきた。
ちょうど休憩中でその話をしていたところだったのでみんな笑いを隠せなかった。
「レニは病院に行くって言って出ていったらしいぜ。」
「カンナ!」
マリアの声にあわててカンナは口を両手でふさいだ。
「病院?レニはそんなに悪かったのか?」
あわてだした大神を見てマリアはカンナを目だけで責めた。
同じく目だけでマリアに謝っているカンナを見て大神が問い詰めようとしたとき、後ろから声が聞こえた。
「ただいま、みんな。」
レニがちょうど病院から帰ってきたみたいだった。
「レニ、病院に行ったって…。」
「ねぇねぇレニ、どうだった?」
大神の言葉を遮るようにアイリスがレニの元へ走っていってうれしそうに尋ねた。
レニが笑顔で答えるとアイリスはレニの手をとって自分のことのように喜んだ。
「おめでとう、レニ。
アイリス、すごく楽しみだよ。」
「ありがとうアイリス。」
みんなも口々におめでとうを言う中、大神だけが独り取り残されたように混乱していた。
「レ、レニ、これはいったい?」
「良かった、大神支配人ここにいたんですね。」
レニが答えようとしたとき、つぼみがあわてたようにこちらにやってきた。
「お客様がいらっしゃってますのでお戻りください。」
「お客様だって。」
「でも、レニ…。」
レニは行くようにと促すが大神はレニが気になって渋っている。
そんな大神に向かってレニはうれしそうに笑って言った。
「お仕事がんばって、おとうさん。」
「レ、レニ、それって………。」
「わぁ〜、レニさん。赤ちゃんができたんですかぁ〜?」
「う、うん、そう。」
大神の言葉を遮って勢いよく迫ってくるつぼみに少し引きつつもレニはそう答えた。
「おめでとうございます〜。
って、私こんなことしてる場合じゃありません〜。
お客様にお茶をお出ししなくちゃです〜。」
またあわてて走っていくつぼみをみんな呆然と見送った。
そこではっと我に返った大神が再びレニに尋ねる。
「レニ、赤ちゃんって本当かい?」
「うん、さっき病院にいってきたら3ヶ月だって言われた。」
「3ヶ月?」
レニの言葉に喜んで大神がレニを抱きしめようとした瞬間、突然紅蘭が不思議そうにつぶやいた。
「大神はんたちが結婚してからまだ2ヶ月しかたってないのに子供は3ヶ月なんて、これはどう考えてもおかしいなぁ〜。」
メガネを光らせながら問い詰めてくる紅蘭からレニは逃げ出すことを決めた。
「ボ、ボク、部屋に荷物を置いてくるね。」
「あ、レニ…。」
大神はとっさにレニに手を伸ばすがレニはさっさと逃げていった。
「大神はん〜。」
「隊長…。」
「大神さん……。」
怖いオーラを背負いながら迫ってくるみんなに大神はどうやったら逃げ切れるだろうかと思案するばかりだった。
ということで妊娠発覚話でした。
何が書きたかったかというと何か言おうとするたびに邪魔される大神さん(爆)
たまにはギャグっぽいお話も書いてみようかと思ってたのですが時間がかかっただけでぜんぜんギャグになってません(苦笑)
やっぱり私はラブラブなのを書くのがしょうにあってるのかしら?
それはともかく、やっとこれで星誕祭に出したSSとお話が繋がったはずです。
しかし4をレニでクリアした直後にここまで考えておきながら出せたのが今ごろ、ウーン
/(-_-)\
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