カラン…
静かな部屋に氷の音だけが響いた。
もう少しで日付も変わろうとしている真夜中、パーティーが終わって用意された部屋へと戻ってきたレニは着替えもせず窓枠に座り込みウィスキーを飲んでいた。
外を見れば細い三日月とたくさんの星たちがキラキラと夜空を飾っていたがレニは見ていなかった。
いや、目には入っていたがまったく意味をなさなかったと言ったほうが正しいだろう。
ときおり風が腰まであるレニの長い髪を揺らすが、レニは押さえつけることすらしなかった。
ただひたすらぼーとして思い出したようにウイスキーを飲むぐらいだった。
帝劇と帝撃の今後のためにも欠かせないパーティーが開かれることになり、支配人の大神と副支配人のレニが出席することになった。
開催場所が帝都から少し離れていたので、ゆっくり休めるようにとホテルの部屋も取られた。
帰りの列車もゆっくりできるように午後の分の切符が用意された。
いつも忙しく働いている二人に少しでもゆっくりしてもらおうと、みんなが気をきかせた結果だった。
気づいたレニは一度は辞退したが結局みんなに押し切られてしまった。
でもあとでこっそりと新しいドレスを買いに行ったことをみれば、レニがどれだけ嬉しかったのかは推し量れた。
やはりこっそりと買ったドレスを試着しているときにレニは子供たちに見つかった。
「お父さんには内緒にしててね。」
そういって人差し指を口に当ててるレニは子供の目から見てもすごく綺麗だった。
ところがいざ出発しようとしたときトラブルが発生し、大神は欠席を余儀なくされた。
レニは当然がっかりしたがもちろんそんなことはひとつも表に出さなかった。
さらに一人でパーティーに出席したため相手(恋人)がいないと勝手に勘違いした者たちに粉をかけられたために、気分はかなり悪くなっていた。
「はぁ〜。」
レニはため息をついたあと自分の着ているドレスを見下ろした。
いつもとは違う自分を見てもらいたいと思って買ったワインレッドのドレス。
子供たちに綺麗だとほめられたときは大神が見たときどんな反応を示すかを思い楽しい気分だったのに、いざ大神に見てもらえないとなると意味のないものになってしまった。
パーティー会場にていろんな人にほめられたけど、ちっとも嬉しくなかった。
特に今日は大切な日だったからどうしても大神にそばにいて欲しかったのだ。
気晴らしにと飲み始めたウィスキーがやっとなくなるころ、レニは扉をノックする音を聞いた。
はじめは酔っ払って幻聴をきいたと思ったけど扉は繰り返しノックされた。
こんな夜中にいったい誰がと思い扉に近づくと、聞きなれた声が聞こえた。
「もう寝てしまったのか…。」
まさかと思いつつレニが扉を開けるとそこには大神がいた。
「良かった、まだ起きてたんだね。」
「どうして………。」
半信半疑でつぶやくレニに大神はにっこり笑って答えた。
「レナがほめていたレニのドレス姿を見に来たんだよ、ほんとによく似合ってる。
それに…」
大神はレニをやさしく抱き寄せると耳元にささやいた。
「今日は大切な日だからどうしても今日中にレニに会いたかったんだ。」
その言葉にレニは嬉しくなり大神の胸の中で泣いた。
「ドレスのこと、レナに聞いたの?」
大神の腕枕に頭を預け大神が髪を梳くのを気持ちよさげに目を閉じていたレニはふと思い出したようにきいた。
「ああ、結局すべての処理が終わったのは日が落ちてからで…。」
レニの元へ行く電車はすべて終わっていた。
大神が仕方なしに部屋に戻ると今日は帰ってこないと聞いていた子供たちがびっくりした。
理由を話すと
「お母さん、お父さんと一緒にパーティーに行くのすごく楽しみにしてたのに…。」
と少し残念そうに志狼が答えた。
「お母さんね、赤いドレスでとても綺麗だったんだよ〜。」
とレナが嬉しそうに試着してたときのレニの様子を語った。
更にレニの元へと行きたい気持ちが強くなったが、行く手段がないと大神は落ち込んでいた。
そこへ現れたのが加山だった。
翔鯨丸を用意したという加山に大神は私用でなんか使えないと言ったのだが…
「理由を話したらみんな喜んで準備してくれたぞ。
断ったらそれこそみんなの好意を無駄にするんじゃないのか?」
と言われたのだった。
「そう…だったの。
帰ったらみんなにお礼言わなきゃね。」
「そうだな。それにしても今日は疲れたな…。」
そう言うと大神は大きなあくびをした。
「私のために無理させてごめんなさい。でも、来てくれてすごく嬉しかった。」
レニの笑顔に大神も笑って答えた。
「そうだ、今度の結婚記念日にはどこか旅行にでも行こうか。
10周年記念ということでさ。」
「志狼とレナも一緒に?」
レニは嬉しそうに大神の目を覗き込んで聞いた。
「もちろん、俺達は家族だろ。」
「うん。」
レニは大神の首に手を回してキスをした、まるでこれが約束の証だというように。
まろさんの大人なレニのイラスト(3333hitキリリク)を見て思わず書いてしまいました(爆)
設定としては文中にもあるとおり結婚してから9年目、レニは副司令(副支配人)の地位についてます。
この時点で志狼くんは8歳、レナちゃんは3歳です。
このぐらいの子供ってどれだけ理解できてるのかを考えるのが大変だったです。
2歳だったらいくらでもわかるのにねぇ〜(爆)
大切な日はうまく文中に納められなかったで「時間別リスト」でも見て考えて下さい(爆)
ヒントは10年です。
戻る