2月3日、節分の日を迎えた帝劇では恒例の豆まきをしようとみんな食堂に集まっていた。
鬼の役はもちろん大神一郎、こういう役を振られるというのはもうお約束だった。
「はい志狼、これが豆だよ。」
そういってレニは傍らに立つ息子に豆を渡した。
「これをこうやって鬼に向かって投げるの。」
見本を見せるように鬼の仮面をかぶった大神に向かって豆を投げた。
「いててっ!
 レニ、もうちょっと手加減してくれないか?」
豆の投げられた威力に不平をもらす大神をレニは無視した。
「志狼も投げようね。」
レニは志狼の手をとると大神に向かって豆を投げた。
一度手を取ってやらすとどうしたらいいのかわかった志狼は自分で好きなように豆を取って投げ始めた。
みんなで豆まきと言っているけど自然と今回の主役は志狼ということになり、自分では投げずに一生懸命鬼に向かって豆を投げる志狼を見守ったりはやしたりしていた。
いくら硬い豆といえど2歳の息子が投げる威力などたかがしれてるため、大神も笑いながら鬼の役を務めていた。
「ボクもやろうかな…。」
今までみんなと一緒に笑いながら志狼を見ていたレニは突然そうつぶやくと豆を取って大神のほうに向き直った。
「レ、レニ?」
向き合った妻に異様な雰囲気を感じた大神は恐る恐るレニに声をかけた。
「…もしかして、この間のことをまだ怒ってるのかい?」
仕事関係で会った女性が大神のことをいたく気に入り帝劇までやってきたことがあった。
大神としては仕事ということもあり内心はともかくにこやかに対応していたのだが、レニはかなり不機嫌になった。
すぐに機嫌を直したので大神はすでに終わったと思ってたのだが、そうではなかったのだということを理解した。
「仕事だということは理解している。
 だけどそれだけでは割り切れない感情があるってことを教えてくれたのは隊長だよね?」
にっこりと笑って言うレニ、目は全く笑ってない上に口調も昔のものに戻っていることに気づいた大神は顔を青くして逃亡を開始した。
「戦闘開始!」
レニは無表情になって力の限り大神に豆を投げ始めた。

「夫婦喧嘩は犬も食わずというところかしら。」
とりあえず安全なところへ避難したかえでが大きなお腹を抱えてそばにある椅子に座ってそうつぶやいた。
「結婚してから前以上にお兄ちゃんがもてるようになったって、この前レニがぼやいていたの……。」
同じように避難してきたアイリスが志狼の手を引きながらそういった。
「レニの積もり積もったものが爆発した、ということでしょうか。」
マリアが難しい顔をしてため息をついた。

その晩、かなりすっきりした顔をしたレニといたるところにあざを作った大神が仲良く帝劇中にばら撒いた豆を掃除するはめとなった。

突発的にできた季節ネタです。
私も豆を投げてすっきりしたい……(爆)

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